【読書感想文】東小雪『なかったことにしたくない』

なかったことに

東小雪さんの新刊 『なかったことにしたくない〜実父から性虐待を受けた私の告白』(講談社)を読みました。

「サバイバー」という言葉をご存知ですか。「事故や事件、災害などに遭いながら生きのびた人」「闘病中の人、またはその病気の経験者」とwikiでは説明しています。

私がこの言葉を初めて知ったのはアメリカのニュース番組の特集で、虐待や難病、依存症などを生きのびた(サバイバルした)人が、カメラに向かってその経験を静かに語っていました。その姿は、経験談を話す被害者というよりも、伝えるべきことがある者、という印象で、そんな「サバイバー」達の強さとしなやかさにとても惹かれました。

小雪さんは現在29歳。この本には、幼少期からの壮絶な体験(数年に及んだ家庭の中での性虐待、薬の大量摂取、リストカット、心療内科や精神科への通院・入院)と家族への問い、在籍していた宝塚歌劇団での経験、パートナーである増原裕子さんとの出会い、カウンセリング、そして現在とこれからのことが書かれています。

この本を読み終わり、まず驚いたのは、小雪さんが初めてカウンセリングを受けたのが、2011年12月。今からほんの2年半前だということ。

それまでの長い間、ほぼ独りで戦い、生きのびてきた姿は、まさしく「サバイバー」。まえがきに「もし私のこの告白が、生きづらさを抱えるだれかの胸に届いたとしたら、それは著者としてとてもうれしいことだ」とありますが、この本の話を友人たちにしたとき「自分にも、同じような経験をした知り合いがいる」という声を何度か聞きました。程度は別としても、抗不安薬や催眠鎮静薬などを処方されたり、リストカット、性虐待を受けた経験がある人は、案外身近に多くいるのかも知れません。

そして最も印象的だったのは、小雪さんがカウンセリング中に『過去の感情を見に行き』自ら閉ざしていた記憶が呼び戻ってくる描写。もしかしたら自分にも封印している記憶があるのではないか、もしくは、うっすらと覚えている子どもの頃のイヤな記憶が、もしかしたら何かのクッションにすぎなく、もしかしたらもっと「違う」ことだったのではないか。『記憶とは』に並々ならぬ興味を持つ私はそんなことも思いながら、本を読み進めました。

この本はタイトルや内容から、きっと『重い』に違いない。だから読めない、読みたくない、と感じている人も多いと思います。でも、なにかのきっかけでどんな状況からも「脱出」できること、そのきっかけは小さな行動をとることから始まること、そしてサバイバルした人の声は力強いこと、などを知ることができて、私は本当に読んでよかったと思っています。