【コラム】 書評 「影裏」

芥川賞受賞作品「影裏」を読みました。 思ったより薄い本だったので、気軽に事前情報ゼロで読み始めてみたものの、想像通りのとっつきの悪さで、なかなか頁が進まず最初から読み直すこと数度。 冒頭の感じでずっと続くのだったら結構キビシイなあ、でもこんなに薄いのだから読めないことはない、と鼓舞して果敢に臨んでみたら、冒頭以降はがらっと雰囲気が変わって読みやすく(だからと言って分かりやすいという意味ではない)、今年の芥川賞受賞作は男性同士の恋愛が描かれている小説だったと知ったのでした。

知らなかったのは私だけか、と調べてみたら、選考委員の高樹のぶ子さんの会見記事に、「また、性的なもの(ボーイズラブ)が背景にあるために、ためらいがちにいろいろなことにアプローチしており、これについて中途半端だという人もいれば、好感を持ったという人もいました。『3・11』もボーイズラブも、表面に出していないことを評価する声もありましたが、それに対するネガティブな声もありました」、とありました。
性的なもの? BL? と疑問符がアタマの上にいくつか浮かびはしますが、ある種の恋愛小説だったことは確かです。

主人公が、職場の仲間であり釣り仲間としてプライベートでも頻繁に会っていた日浅が急に会社を辞め連絡が取れなくなったとき、「少し水くさいと感じた」程度の気持ちの表現が、その後「以前頻繁に日浅を見かけた社内のあちこちに自然と足が向くように」なり、同僚に「また来たよこの人」「寂しいんだよね」「禁断症状出ちゃってんじゃないかい」とまで言われてしまう。

やや分かりにくい展開ですが、きっとこれは日浅に対する恋愛感情だろうなと思っていると、主人公は以前、和哉という男性と2年間「胸苦しい」付き合いをしていたこと、和哉は別れ際にSRS(性別適合手術)を受けると公言していたことがさらっと描かれます。その他の登場人物、アパートの住人や日浅の家族も唐突にさらっと現れるし、いろいろな出来事も起きてはいるが、そういえばね、とさらっとそこに触れる程度なのです。

このさらっと感は、人生生きていれば起きるいろいろは大したことはないのさ、というメッセージなのか、そうではなかったらどう考えることができるのかな、と他の人の感想に興味があります。好き嫌いのある小説だとは思いますが、高樹のぶ子さんの言葉にあるように、表面に出さず、ためらいがちに、話が進んでいく文体に興味が持てる人はきっと背景のいろいろを考えて楽しく読めるのではないかと思いました。機会あればぜひ。

参考資料: 「ほとんどケンカ状態の激しい対立があった」 芥川賞選考委員の高樹のぶ子さん会見詳報 – 産経ニュース http://www.sankei.com/life/news/170719/lif1707190044-n1.html